Google Book Searchが電子書籍の世界を大きく切り拓く

つい先日「もう紙の本は全部電子書籍になっちゃえばいいのに」というような内容のエントリを書いたばかりですが、今日こんなニュースが飛び込んできました。

Google Book Searchには、新たに「購入」というオプションが加わります。購入により、著作権保護期間内にある書籍についても全文にアクセスできるようになります。図書館や大学等の機関単位での購読契約オプションもあります。この購入オプションは、さしあたっては米国のみとなっていますが、Google社は「将来的には各国の業界団体や個々の権利者と協力して、この契約がもたらすメリットを世界中のユーザーに広めたいと考えています」としています。

著作権者は、Google社が創設する“Book Rights Registry”に登録することで、当該の著作物をどのようにオンラインでアクセスさせるか、またそれによりどのように報酬を得るのかをコントロールすることができるとされています。

(太字は引用者による。)

この動きは、出版業界の扉を開き、電子書籍が世界に普及する一つのきっかけになる。YouTubeニコニコ動画著作権問題に一石を投じ、少しずつコンテンツ業界の扉を開いてきたのと同じように。

Google Book Searchが取り扱う書籍とは

  1. 著作権で保護された刊行中のまたは市販されている書籍
  2. 著作権で保護された絶版のまたは市販されていない書籍
  3. 著作権が失効した書籍

この3種類の書籍についてGoogle Book Searchがオンラインアクセス権を販売するそうです。(By Google ブック検索和解契約

出版社はオンラインでの直販チャネルが増える。絶版の書籍からも増刷リスク無しで利益を上げられるようになる。自費出版の書籍も、Google経由で販売*1できるようになる(?)。

で、疑問に思ったことを4つほどピックアップ。

疑問1.オンラインアクセス権の価格はどうなる?

電子データのオンラインアクセス権の価格は、紙の本より(紙代+印刷代+物流代がかかってない分だけ)安くなって欲しいなーと思う。

書籍のデジタルデータを作るコストは誰が負担すんねんって話は別にあるけど、販売部数が伸びれば一冊当たりの費用は限りなくゼロに近づいていくから無問題でしょう。

電子書籍の普及を阻害したい出版社は、紙の書籍と同一の価格にするのが効果的。

疑問2.自費出版の書籍の価格は誰がどう決める?

著作者が自由に決めるのだろう。それ以外に価格の決め方は無いし。

だとすると、有名な作家であればあるほど、自費出版してGoogleで販売した方が自身の利益は増えることになる?

もちろん出版社を通して出す価値は少なくない。特に「紙の本が支配的な世の中」では強力なので、既存の各出版社は、作家が直販しちゃうリスクをあまり心配しなくて良いのだと思う。

疑問3.電子データを丸っとダウンロードできないのか?

Google Book Searchでは「オンラインアクセス権」の販売ということで、普通に使ってる分には電子データをダウンロードできない仕様かもしれない(って、データを画面で見てる時点でダウンロードはしてるんだけどね…)。その「不便さ」によって、著作権保護を擬似実現することが、出版業界や著作権協会との妥協点だった可能性は結構あると思う。

だが、本を購入した人が「ネットに繋げなくても書籍を読みたい」と思うのは当然のこと。デジタルデータの販売で先行している音楽業界でもDRM廃止の方向に動いてるし、電子書籍がファイルとしてダウンロード可能になるのも時間の問題じゃなかろうか。

Google Book Searchがダウンロード提供を始めるのが先か、あらゆるデータがサーバ上にあってもローカルにあっても、どっちでも同じように扱えるユビキタス世界が来るのが先か…って考えると、意外と長期化して微妙な追いかけっこになるかもしれないな。

疑問4.「書籍」なら売れるのに「ネット上にある情報」は売れない

二つ具体例を出す。

  • Web絵日記は売れないけど、書籍化されれば売れる
  • ネコプロトコルはWebサイトだと売れないけど、書籍化されれば売れる*2

Google Book Searchだから書籍が対象ってのは判る。だが考えてみて欲しい。仮に世の中の書籍がぜーんぶ電子データになって、新たに刊行される書籍も電子データばかりになったら、書籍とネット上にある情報の境目は曖昧になってくる。

両者の違いは何か?装丁、読み易いレイアウトやフォント、一冊を通したストーリーやテーマの有無、コンテンツの編集の有無、第三者のチェックの有無…そこら辺りだろうか。

もし「書籍の体裁を整えればGoogleで売れる」となれば、ネット上のコンテンツを作る際にも書籍化を意識したコンテンツを作ってGoogle上で販売しようとする人がたくさん出てくる。…そうなったらもう『Google情報商材の販売サービスを始めた』みたいになってしまう。

やはりGoogle上で売るためには、自費出版でもいいから「お金をかけて紙の本にした」という実績が必要になるのかな?なんかちょっと意味不明な縛りだし、実際に出版されたかどうかなんて証明するのも難しそうだけど、コンテンツの質を一定以上に保つために必要なコストってことなのかな。

まとめ

電子書籍が普及するためには解決しなければいけない課題が結構ある。

だがGoogleが動いたことで、コンテンツの流通側(権利処理側?)の憂いは大きく減った。後はデバイスが進化すれば…どこかのタイミングで爆発的に普及するタイミングが来るかもしれない。

まだまだ当分は紙の本が支配的だろうけどね。

最後にGoogleさんから一言

Google の使命は、Google 独自の検索エンジンにより、世界中の情報を体系化し、どこからでもアクセス可能なものにすることです。今日、著者、出版社、図書館の皆様と共に、Google はこの目的に向けて大きく飛躍することができました。」と Sergey Brin (Google 共同創設者兼技術部門担当社長) は言いました。「この契約はすべての関係者に利益があるものですが、最も利益を得るのは読者の皆さんです。読者の皆さんは、世界中の本にある非常に豊富な知識を、簡単な操作で得ることができるのです。」

出版界の友人やパートナーと共に踏み出したこの大きな一歩が、最初の一歩となり、さらに発展することを願っています。ブック検索の最も大切な目標は、書籍だけではなく、著者や出版社が長期にわたって活躍できる機会を提供するサービスとして発展することです。

(太字は引用者による。)

どうか電子書籍が出版業界の敵になりませんように…。

*1:オンラインアクセス権を販売

*2:自分も買っちゃう