ダウンロード違法化で日本だけが先に進むかもしれない話

ダウンロード違法化ってツッコミ所満載だよな。ちょっと挙げると、

  • ダウンロードはアウト。だけどストリーミングはセーフ
  • YouTubeやニコ動はストリーミングじゃないけどセーフ
  • つまり『キャッシュ』ならダウンロードしてもセーフ

という具合なので、一体何を考えてるんだか非常に興味深い。

ぐだぐだな法律の詳しい中身よりも、ダウンロード違法化を決めた人たちの狙いや、これが法律として施行された後、日本はどのように変わっていくか?を整理・予想してみたい。

ダウンロード違法化を推した人たちの狙い

  • 時計を巻き戻すこと

具体的には、コンテンツビジネスを取り巻く環境を、一般家庭にネットが普及する以前(1997年頃)の状態に先祖返りさせることだろうと思う。CDのセールスは1997〜1998年頃を境に減少に転じているからな。(参考資料:日本レコード協会:過去10年のCD生産金額の統計

この法律を推し進めた人達は、安直に「ネットが売上減少の元凶」だと考えているか、もしくは「iPodに保証金を課せ!」と振り上げた拳のおろしどころに困って「ダウンロード違法化ぐらいで勘弁してやる」になったのか…。そこら辺の違いが、実は将来の動向に大きく関わってくるのだ。

ネットが売上減少の元凶だと考えている場合=最悪のシナリオ

小寺さんはこう指摘している。

ダウンロード違法化は、実行されれば状況を悪くするだろう。そもそもストリーミングがベースのサービスがお構いなしということで、反抗的なネットユーザーによってさらに違法アップロードが増えることが予想される。そうなればストリーミングも規制対象となり、罰則化も検討されて行くだろう。こういうことは、効果がないとわかると、必ず規制がエスカレートするものである。

これは本当に恐ろしい最悪のシナリオである。

地球規模で広がるインターネットの世界において日本だけが「違法なコンテンツをダウンロードすると罰せられる」と常に脅された状態になれば、日本の情報流通が死ぬ恐れがある。情報の心筋梗塞だ。

「違法なコンテンツをダウンロードしなければいいじゃないか」という意見も理解はできる。しかし、ダウンロード者は、そのコンテンツが合法か違法かを事前に知る術は無い。「知らなければ違法性は問われない」と言っても、じゃあ「知らなかった」或いは「知っていた」ということは誰が証明する?誰がその判定を下す?「知っていた」ことに捏造するのも簡単ではないのか?

もしそんな世の中になってしまったら、日本だけが世界の情報から取り残されてしまう。日本は(中国のグレートウォールのような物よりも)もっと恐ろしい言論統制が施行される土地として、世界中から敬遠されることになるだろう。

ダウンロード違法化がエスカレートすれば、事はコンテンツビジネス業界だけの問題に留まらず、日本全体の情報流通の阻害へと繋がってしまう危険性があるということを考えて欲しい。はっきり言えば、CDのセールスが落ちることよりも、日本の情報網が止まってしまうことの方が遥かに被害金額が大きい(フェルミ推定する気も起きないくらい大きい)。

ダウンロード違法化を廃止するタイミングの提案

その先には何があるか。権利者が狙うように、またみんなが一生懸命DVDやCDを買うようになるなどというのは、幻想だ。コンテンツは単純にメディア露出が減ることで、いいコンテンツと出会う機会損失が大きくなる。どんなにいい作品が市場に出ようとも、中身を知る機会がなければ買わない。中身を知らずに前評判だけで3000円4000円出すほど、今のネット慣れした若者はそれに価値を見出さないだろう。

争点のひとつは、

  • 売上が下がったことと、ネットが普及したことの間に相関関係はあるのか?

という点で、相関があるならダウンロード違法化によってCDなどの売上は上がるし、相関が無いか、またはネットがセールスに寄与していた場合は、売上が急速に下がることになるだろう。

そこで、ダウンロード違法化を推している企業や団体に提案だ。

もしこの法案が施行された後で、コンテンツの売れ行きが今よりさらに悪化した場合、法案を強化するのではなく破棄することを検討して欲しい。これ以上、他の業界や情報流通全体に悪影響を及ぼさないうちに…。

ダウンロード違法化に対抗する消費者の選択の可能性

あらゆるコンテンツがサーバ上に乗っかり始めるかもしれない。

なぜかというと、ダウンロード違法化が施行された世の中では、ローカルPC上に音楽データや電子書籍を持っておくことがリスクになるからだ。「そのデータは自分が買った」ということを証明できなければ、民事訴訟を起こされても文句は言えない(よね?)。

となれば、あるコンテンツを購入したユーザーは、そのデータをローカルにダウンロードするのではなく「一時キャッシュ」としてストリーミングに近い状態で楽しむことになるだろう(ダウンロードすると厄介事を抱え込むことになるからさ)。それはユビキタスコンピューティングの研究者たちが妄想してきた世界に近い。ネットワーク環境が十分整備された世界では、コンテンツが手元にあろうが、サーバ上にあろうが違いは無いのだ。

ダウンロード違法化によって、音楽・動画・漫画・書籍…あらゆるコンテンツの電子化が促され、街中でのネットワーク環境も整備されてストリーミングで提供される。そんな世界が日本だけ一足先にやって来る。そんな可能性があるならば、ダウンロード違法化も悪くない。

老人たちが時計を巻き戻そうとした結果、若者たちの時計を早める結果になった…なーんてことになれば痛快だよな。

繰り返すけど

今以上ダウンロード違法化がエスカレートしないことを祈る。