紙の本という情報媒体の価値を考える

いきなりですが、私は「もう本は全部電子書籍にしちゃえばいいじゃん」と思っとるわけです。なぜなら、電子書籍と比較すると紙の本にはデメリットがありすぎるから。軽く列挙するだけでもこんなにある。

 ×資源の無駄:全く内容が同じ本を、何万〜何百万冊も刷る
 ×重い:たくさん持ち歩けない
 ×場所を取る:書店も無限に陳列できない、家庭でもたくさん保管できない
 ×流通コストが高い:重い本を運び、大量に陳列して売り、買ったら持ち帰る
 ×製本コストが高い:紙代、インク代、印刷代、製本代…
 ×出版の初期コストが高い:最低でもイニシャルで100万円前後は必要
 ×経年劣化する:紙だから仕方ない
 ×本の内容で検索できない:紙だから仕方ない
 ×売価のわりに印税が低い:製本や流通にコストがかかるから仕方ない

逆に、紙の本のメリットといえば、

 ○紙の方が(ディスプレイで見る電子書籍より)読み易い、目が疲れない
 ○電気がなくても読める
 ○印刷や流通に携わる人のお仕事、収益源になる

これぐらいしかない。っったく紙の本はメリットが少ないぜ!と思ってたんだけど…私、間違っておりました。

紙の本の真の価値はデメリットの中にあったんだ。

出版にコストがかかること自体が紙の本の真の価値

1つの本を出版*1するには発行部数に応じて数百万〜数千万円単位のお金がかかる。
 ↓
出版した本が売れなければ赤字になる。
 ↓
赤字にならないために出版社や書店が努力することになる。

  • 売れなさそうな本は、そもそも出版されない
  • 編集や校正が行われてから出版される
  • 売れない本は書店から消えていく
  • 売れない出版社用の陳列棚は書店から減っていく
  • 売れなかった本は増刷されず絶版となる

以上のような力が自然と働く。出版の前後でまとめると、

  1. 出版前:出版社のGOサインが出たものだけが出版される*2
  2. 出版後:経済的な生存競争にさらされて流通の段階で淘汰されていく

ということになる。

紙の本は、製本や流通に決して安くないお金がかかってしまうが故に、作り手、売り手、買い手に至るまでの(印刷会社を除いた)全利害関係者が、出版の自主制限(のようなもの)と、自然淘汰のサイクルを回す動機になっている。

それは発信や保管にお金がかからない電子情報媒体では自然には得られない作用でもある。(電子情報媒体=ネットが必要とするのは、中央集権的なコンテンツの質の管理じゃなくて、クラウドソーシングによる評価とその集計だから。)

まとめ

紙の本という情報媒体の価値は「出版にお金がかかること」にある。

それはつまり、今、書店にズラーっと並べられている本はすべて、著作者、編集者、その他出版社の人達、さらには書店の人までが「これは売れるはず」とか「この本は出版に値する水準に達している」と認めたコンテンツばかりなのだーということ。

理論上は、な!

*1:製本から流通販売まで

*2:著者以外の第三者の目によって「売れるか、売れないか」のチェックが入る