嫌煙家の皆様へ。喫煙者にそれを力強く訴えても意味が無いよ

私はたばこが大嫌いだ。

  • 臭いから:強烈でしつこい臭気が部屋や体に染み付く。口臭も酷い
  • 周りを巻き込むから:周囲の空気を汚さないたばこなら文句はない
  • (自分が)喘息だから:たばこの煙が充満した場所に居ると発作で死ぬ

個人的には『たばこは合法的な毒ガス散布である』と思っている。

しかし…

喫煙者にそれを力強く訴えても意味が無いよ

  • たばこが体に悪いこと
  • たばこが周囲に迷惑をかけていること
  • (自分が)たばこが嫌いであるということ

こういった嫌煙家がよく言いそうなメッセージは100%意味が無い。

なぜか?理由は3つある。

理由1:そんなこと喫煙者が一番よく知ってるから

喫煙者は皆、たばこの害について知ってて吸ってんだよ。

嫌煙家の人に聞きたいのだが「えっ!たばこって体に悪いの!?じゃ今すぐ止めなきゃ!!」なんて言う喫煙者を見たことがあるか?私は無い。もし喫煙者全員が、そんな純粋な愛すべき馬鹿ばっかだったら、たばこ会社はとっくに倒産してるだろうよ。

喫煙者は馬鹿ではない。それどころか、頭がいい人であればあるほど、たばこがもたらす幻想や依存(後述)は強固になり、余計に止められなくなるという構造になっているのだ。*1

嫌煙家は『喫煙者は、嫌煙家が言うようなことは全部知ってて吸ってる』ということを認識しよう。

理由2:喫煙者はニコチン中毒者だから

ニコチン中毒も、アルコール中毒も、麻薬中毒も同じだ。

具体的に想像してみよう。麻薬中毒者に面と向かって、

  • 「麻薬は体に悪いから止めろ!」
  • 「麻薬は君の家族や友人を悲しませ、迷惑をかけるから止めろ!」
  • 「オレは麻薬は嫌いだ。だから止めろ!」

これって効果があると思うか?私は思わない。

嫌煙家は『喫煙者はニコチン中毒である』ということを認識しよう。

理由3:喫煙者はたばこの幻想を信じ、それに依存してるから

たばこを吸えば楽しい気分になる。頭がスッキリする。喫煙者は、たばこによって何かが得られるという幻想を信じている。

その幻想は『依存』に姿を変える。たばこが無いと楽しい気分になれない。頭をスッキリさせることができない。楽しい人生をおくるためにはたばこが必要なんだ!だからオレから/ワタシからたばこを取り上げるな!…そんな風に自分を騙している。喫煙者は麻薬中毒者と同様。依存が生まれるのは避けられない。

説明するまでも無いが、そんな幻想はすべて嘘である。

たばこが与えてくれるのは、ニコチンの欠乏感を埋めることだけだ。それが「頭がスッキリする」というように誤認されているだけ。依存症ってのはそういうもの。麻薬を止められない人と同じだから。

世の大半を占める非喫煙者を見れば「楽しい人生をおくるためには、たばこが必須である」というのが嘘であることが判ると思う。非喫煙者たちは、たばこなんかなくても楽しい気分で、頭をスッキリさせて、美味しい食事を楽しんでいる。たばこがあればさらに楽しい?そんなわけねーだろ。

嫌煙家は『喫煙者はニコチンが生む幻想の罠に囚われている』ということを認識しよう。

じゃ、どうすれば大切な人にたばこを止めてもらえるのか?

外部からの働きかけによって、たばこを止めさせることはまずできない。

唯一の方法は、喫煙者本人が、

  1. たばこの害を知る(もう知ってる)
  2. たばこの罠(ニコチン中毒+幻想)の構造を知る
  3. たばこを止めることが苦しみではないことを理解する(我慢で禁煙するのは一番ダメな方法)

その上で、自分で吸うか止めるかを選択してもらうのが良い。結果「吸う」という選択をするのも「止める」という選択をするのも喫煙者の自由意志に基づく必要がある。そうじゃないと根本的に止められない。それくらいたばこの幻想は強烈なのである。

だが、もし喫煙者が「たばこを止めてみようかな〜?」と言ったときには是非、

禁煙セラピー 女性のための禁煙セラピー
禁煙セラピー 女性のための禁煙セラピー

このどちらかの本を、そっと渡してあげて欲しい。たばこの罠の構造を知れば、苦しまなくても禁煙はできる(ただしニコチンが体から抜けきるまでの期間は、少しだけ我慢が必要だけど。それを過ぎれば、もう二度とたばこなんて欲しいと思わなくなる)。

ちなみに、たばこを吸わない私が両方読んでみた結果では「女性のための禁煙セラピー」の方が、要点が整理されていて(かつ色分けも少しだけ多くて)判りやすいと思った。論旨はどちらも変わらないので、より読みやすい方が好みだという人は、性別にかかわらず「女性のための〜」の方をお勧めする。(逆に、余計な加工はいらねえ!ストイックな方を読ませろ!という漢気溢れる人は、通常の「禁煙セラピー」がお勧めだ。)

また日常的に活字の本を読まない人向けには、

禁煙セラピー イラスト版
禁煙セラピー イラスト版

もある。こちらは未読だが、おそらく漫画で育った世代にはストンと腑に落ちる表現になっていることだろう。

何が言いたかったかというと

喫煙者にも嫌煙家にも『喫煙の構造*2』を理解して欲しいということ。

私は個人的にたばこが嫌いだ。だからたばこを吸う人を減らしたい。親しい人であればあるほど、たばこを止めて欲しいと思う。しかし、喫煙の構造を理解すると「他人から働きかけてたばこを止めさせることはできない」ということがよく判る。

だがそれは絶望ではない。喫煙の構造を理解すれば、苦しまずにたばこを止めることも可能なのだ、という希望も同時に見えてくるからだ。

そして喫煙者の誰かが「たばこ…止めようかな」と言ったときに、周りに居るたばこを吸わない人たちが、すぐに『苦しまずにたばこを止める方法』を伝えることができる。そんな世界になったら嬉しいのになーという変なことを考えている。

こんなエントリでも謝辞を

「禁煙セラピー」の著者、アレン・カーは重度のヘビースモーカーであり、Wikipediaの情報によると2006年に肺癌で亡くなっているらしい。

喫煙という行為を、喫煙者の立場からきちんと科学してくれてありがとう。アレン・カーがいなかったら、私のような極端な嫌煙家は未だに効果のない叫び声を挙げていただろうし、私の彼女も喫煙者のままだったでしょう。本当にありがとう、ご冥福をお祈りします。

*1:教育水準が高い社会の場合、たばこ会社は、たばこが体に悪いということを隠さない方が戦略的に優れている。その上で、たばこカッコイイ、たばこは頭をスッキリさせる、という雰囲気作りだけをせっせと行えば、根の深いニコチン中毒者=たばこ産業の上客を量産できる。

*2:なぜたばこを吸いたがるのか?なぜ止められないのか?なぜ止めるのが苦しいと思っているのか?